FUSION 多摩ニュータウン学基礎講座 - 「歩車分離」から「歩車共存」へ

基礎講座 第7講

「歩車分離」から「歩車共存」へ


多摩ニュータウンの道路は,大きく都市幹線道路,地区内幹線道路,住区幹線の3種類 に分けられます。道路構成としては,東西の線と南北の線で構成されています。東西には 3本の幹線が横断しています。南に府中〜相模原線(野猿街道・鑓水街道),中央部に ニュータウン通り,北に尾根幹線があります。それに対して,南北には住区を横断し鉄道 駅に接続し,八王子,日野,町田につながる道路があります。長池地区でいいますと,日 野〜町田線になります。

 第4講で述べた「新住区」においては,当初「歩車分離」という考え方で道路は造られ ていました。車の通る道と人の歩く歩行者専用道を完全に分離する考え方です。ところ が,時代の経過とともに道に対する考え方は変化してきました。諏訪・永山地区では家の 前まで車が入れないところもあります。「近隣センター」も車で買い物に行けないなど不 便な点も明らかになってきました。モータリゼーションの進展で車というものが生活に欠 かせないものとなってきのです。駐車場についても当時は,公団で10%,公社で30%の戸 数の整備しか考えていませんでした。

そこで新たに登場してきたのが「歩車共存」という思想です。1970年代,オランダで 「ボンネルフ」(woonerf)直訳すると「生活の庭」という考え方が提唱されました。従 来の「歩車分離」という考え方は,裏返すと車の通行にじゃまな歩行者を道路から排除す るという意味では車優先ということになります。そこで,「コミュニティ道路」と呼ばれ る,歩行者を優先させ,車との共存をはかる試みがあります。写真は,多摩市唐木田地区 の例ですが,住宅地の中まで車が通行できますが,スピードが出せないように道路を蛇行 させたり,交差部分は石畳にしています。

NTにおける道路の課題は,地区内は道路整備は進んでいるのですが,区域外との接続 部分がボトルネックとなっていることです。他方,NTの街路の楽しさは,四季折々に私 達を楽しませてくれる街路樹の多様さです。街路樹は,緑のスペースとしても公園に負け ないボリュームになっています。車を置いて,ふと散歩をしたくなるような「歩いて楽し い道」がいいですね。道路は,人や車が通行するだけの空間ではないはずです。道という 空間に,コミュニケーション,遊び,景観,バリアフリーというアメニティを取り入れな がら,道路がいわば「コミュニティの庭」として再生させたいものです。その中で,どう したら人と車とが共生できるのかが,私たちの大きな課題として残されています。もう一 度,皆さんの家の前の道路は何のための道路か考えていただければありがたいと思いま す。

(蓮生寺公園通り一番街 炭谷 晃男

次回は先日,見附ヶ丘連絡協議会の協力をいただき,長池地区で多摩ニュータウン学会 がアンケートをさせていただきました。その結果の概要についてご報告いたします。