多摩ニュータウンの未来

多摩ニュータウンの未来

――世界の都市に学ぶ――


はじめに

「多摩ニュータウン」は、海外の先進都市を参考に造られた街であるだけに、都市基盤は明快で計画的なまちづくりが進められてきましたが、ここに来て東京都の、ニュータウン開発からの撤退や都市基盤整備公団の民営化の動向など、今後のニュータウン開発を取り巻く環境が大きく変化しています。そんな中で時代は「官主導から民主導」「参加型のまちづくり」と言われているものの、改めて「民」とは、「参加型」とは何かを考えさせられることも多く、ここで、「住み続ける者としての多摩ニュータウンのあり方」について海外のまちづくりを参考にして考えてみようと思います。

ホットスポットとコールドスポット

今後、日本の人口は減少すると予測されています。しかも100年間で半分にもなり、昭和の初めと並ぶ人口です。同様に多摩ニュータウンの人口も減少します。多摩市域ではすでに人口が減少し始めていますし、マンションブームでにぎやかな八王子市域や稲城市域でも、建設が一段落すると人口減少が始まるでしょう。

図1 日本の人口推移

今は民間の事業者が大量に住宅供給を進めていて、一部の地区には人口が増えて元気がありますが、一度それがとまると、次第に元気を失っていくと思われます。こうした人口の減少に伴って行政サイドでは戦々恐々としているようですが、結果として多摩ニュータウンの中でも人口が集まるホットスポットと人口が減少するコールドスポットが生まれると思います。

ニュータウンの草分けレッチワース

計画人口30万人の多摩ニュータウン開発が30年間で約70%進んだのに対して、ニュータウンの草分けであるイギリスのレッチワースでは3.2万人の計画をようやく達成し、100年たった今3.3万人ほどで安定しつつ維持されています。都市はゆっくりと成長していると、小さなゆがみや多少の不調和はいつの間にか吸収され無理な状況や現象は見えてこないのですが、多摩ニュータウンの場合は一挙に同一世代を集めてしまったことで無理が生じています。

写真1 古い学校の屋根を修復している。日本ならばすでに建て替えているのかも。

特に開発初期の地区では、高齢化と大量のバリアフリー改善が困難な住宅が大きな問題となってきそうです。エレベーターのつけにくい構造の建物は、高齢化する居住者には負担で、資金に余裕のある人は移転を始めていますが、移れない方はやむを得ず住み続けることになります。

地域相互の連担

市街地がドーナツ状に拡大していくという構図は、都市の発展にはありがちなことなのですが、こうした時間差をうまく組み合わせることで持続可能なまちづくりを進めることができます。その好例がアメリカの西海岸オレゴン州ポートランドに見ることができます。

材木の切り出し港として栄えたポートランドは、自動車の普及と共にバスなどの公共交通の経営を圧迫させました。都市の中心部は人口の空洞化と共に交通渋滞や治安が悪くなり、人々が普通に住み続けることができなくなっていました。そこでオレゴン州議会は、こうした状況を改善するために、倒産しかかっていたバス会社を買い取って、行政区域を越えてネットワークする公的なバス運営組織を作りました。

バス料金を安くすることで、自動車利用を抑制して大気ガスの濃度を下げ、都心部に車を入れないような仕掛けを考えました。路面電車を整備してパークアンドライド(途中駅で車をプールする)という方法や、中心市街地の空気をきれいにするために中心部での電車やバスは無料にするなど30年にもわたって画期的な運営を進めてきました。

写真2 車イス利用者も自力で乗り降りできる乗降路をもったMAX号。
写真3 スロープはドアの車イスボタンを押すと出てくる。

その団体はトライメット(TRI-MET)と言い、ポートランド市のみならず、ポートランド都市圏をネットワークする交通の要で、障害者や高齢者に対する移送サービスも公共交通の一つとして行う等、地域の基本的な交通インフラとして機能しています。

図2 ポートランドのトライメットのネットワーク図。

多摩ニュータウンでは京王バスや神奈川中央バスが運行していますが、身近な移動を支える交通網として、多摩市では「ミニバス」の運行が市民の足になっています。でもそれは多摩市の「ミニバス」ですので八王子には入ってこないのです。残念ながら多摩ニュータウンを生活圏としている人にとっては利用が限定的になっています。もっと生活者に密着したサービスが欲しいのですが、そのためには行政単位を越えた仕組みでの交通網が必要です。

持続可能な環境

環境都市として名高いドイツのフライブルグではいろいろな自然エネルギー利用が試みられています。酪農ではバイオガスで大規模団地の熱エネルギー利用を進めていますし、ソーラー発電は市のサッカー場の屋根に市民による投資で装置して運営するなど、自然環境と経済、さらにコミュニティの融合した施策を展開しています。フライブルグの場合は行政と市民が協力して、こうした展開を可能にしているのですが、住宅づくりにも市民の投資が行われている高齢者住宅があります。

写真4 自然エネルギーですべてをまかなっている施設の案内図。

その住まい作りの方法は日本では見られない供給システムです。住戸の所有関係で言うと、賃貸住宅と持ち家住宅の混在型で、賃貸住宅には公営住宅も組み入れられています。さらに、その住宅に対して、市民からの投資もできる仕組みになっていて、運営による利回りを配当するシステムが組み込まれていました。

写真5 フライブルグの高齢者住宅は市民の投資を利用した建物建設を進めている。

建物ファンドについては日本でも普及していくと考えられますが、高齢者住宅に対して市民自らが投資して建設運営するという考え方に、今後の多摩ニュータウンでの住まい作りのあり方を学んだように思います。市民が自分たちの親世代のために投資して居住環境を整えることで、自らが責任を持ったまちづくりが進んでいるのです。

土地の価値と住まいのあり方

多摩ニュータウンの土地は、最終的には細かく所有権が分かれますが、多くは団地単位で区分できます。だから土地所有の形は、区分所有法という法律に裏付けられた管理組合と、大量の賃貸住宅経営者としての東京都、公社、公団と、そのほかは小規模な戸建て宅地所有者となります。

分譲された土地は戸建て宅地を除いて、複数で構成される個人の土地ですが、合意さえあれば増築も建て替えも可能なみんなの土地です。ですから、これらの土地の活用は個人の利益のためではなく、みんなの利益のために使われます。つまり、複数の個人が構成する団地では個人の利益と集団の利益が両立することになります。これらを地域の経済システムとして体系化すると、レッチワースに見られるような不動産の運用による地域づくりも可能で、経済的に自立したひとつの都市を形成することもできるかもしれません。

ガーデンシィティ多摩の未来

多摩ニュータウンは昭和46年から多摩市域で入居が始まり、それから約10年毎の遅れで、八王子市域、稲城市域、町田市域という順に開発が進められています。開発が段階的に進んでおり、地域間の格差が生まれ、歪みも生じていますが、それらを相互に連携して補完することができます。

現在発生しはじめている多摩市域での高齢化への対策は、それらの資産を若い世代へ移譲することで高齢者の居住環境を改善することが可能です。その資産の賃貸料や売却益で八王子市域のエレベーター付きの住宅に住み移ることができます。つまり多摩市域での『不足』を八王子市域の『余剰』で補います。また、八王子市域から独立する若い世代は多摩市域のそうした住宅に住み、都心への時間短縮にも有効です。古い住宅ですから多少の改造も可能ですし、若い世代で増えているシェア住宅や個性的な住まい方も可能でしょう。

今後、多摩ニュータウンの人口配分は大きく波打ちながら均衡を求めることになりますが、これまで培ってきた社会資産を活用することで持続可能なまちづくりを実現させることができます。しかし、こうしたまちづくりは個々の行政や企業や団体だけでは難しく、複数の組織をつなぐ政策立案機構が求められているのではないかと考えています。将来へ向けて、NPO FUSION長池の住宅支援事業の進むべき方向性としては、この当たりではないかとも考えているのです。


参考文献

  1. 西山康雄『アンウィンの住宅地計画を読む』彰国社
  2. 福原正弘『ニュータウンは今』東京新聞出版局
  3. 川村健一+小門裕幸『サスティナブルコミュニティ』学芸出版社
  4. 資源リサイクル推進協議会編『徹底紹介「環境首都」フライブルク』中央法規出版社

参考サイト

レッチワース
http://www.letchworth.com
フライブルク
http://www.freiburg.de/
ポートランド
http://www.ci.portland.or.us/

(2001/10 住見隊・夢見隊 秋元 孝夫)