多摩の歴史をたずねて

多摩よこやまの道と古街道群

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赤駒を山野に放し捕りかにて
       多摩の横山徒歩ゆか遣らむ  〜万葉集〜

この歌は「赤駒を山野に放牧して捕らえられず、 夫に多摩の横山を歩かせてしまうのだろうか」という防人の妻の歌です。

平成15年4月に都市基盤整備公団により整備されていた多摩 よこやまの道が一般に開放されました。多摩よこやまの道の位 置する尾根筋は、古代より武蔵野と相模野の両方を眺められる 高台として、また、西国と東国を結ぶさまざまな交通の要衝と して活用されてきました。今回は多摩よこやまの道とそこに痕 跡を残す古街道群について触れてみたいと思います。


[道標]
よこやまの道の道しるべです。分かれ道には必ずこの道標があり、道に迷うことはありません。(撮影:田中純)

小雨模様の5月17日土曜日、多摩よこやまの道の一方の終点 である唐木田の大妻学院から歩き始めました。初めは小山田緑 地への道を進みますが、ゴルフ場の横をぬけて多摩市総合福祉 センターの裏手に出ます。分かれ道には必ず道標があり、ほと んど道に迷う恐れはありません。ここから先は一本杉公園を過 ぎるあたりまで歩道や住宅街の中の遊歩道を歩くことになりま す。よこやまの道というネーミングにゆるやかな起伏を繰り返 す尾根伝いの土の道を想像する方も多いでしょうが、ちょっと 期待はずれの感があるかも知れません。しかし、車のことは考 えずに歩けるので気持ちのいい道であることは間違いありませ ん。多摩市南野には南側の小野路地区の眺望ポイントがありま す。この先にもいくつか眺望ポイントがあり、多摩市の街並み や町田市、川崎市側の緑地の風景が目を楽しませてくれます。


[鎌倉裏街道]
一本杉公園に残る鎌倉古道の1つ、土方歳三が出稽古で通った道とのことです。(撮影:田中純)

さて、南野の南側、小野路の浅間神社付近を通って多摩市一 の宮へ向かって奥州古街道というのが通っていたそうです。箱 根の足柄峠を越えて東国へやってきた人々が通った道だったよ うです。小野路には古街道跡と推察される道もありますが、よ こやまの道付近では、痕跡もよくわかりませんでした。よこや まの道は一本杉公園の横を通りますが、野球場を過ぎたあたり に新撰組の土方歳三が出稽古で通った道と言われる鎌倉裏街道 があります。木立に覆われた道で、昔はこのような道が多摩丘 陵を縦横に走っていたのでしょうか。現在のよこやまの道は恵 泉女学園の前を通りさらに進みます。緑の濃くなった並木に小 雨をよけてもらいながらの散策です。

その先に妙桜寺というお寺がありますが、この付近はいくつ かの古街道が集まった場所のようです。 800年前いざ鎌倉とい うとき板東武者が駆けつけた道と言われる鎌倉古道、鎌倉古道 より谷戸の集落沿いを通る旧鎌倉街道、奥州古街道と同じく箱 根・足柄峠を越える矢倉沢古道等があります。この中に御尊櫃 御成道(ごそんひつおなりどう)と呼ばれる道があります。この 道は徳川家康が亡くなった直後、日光の東照宮へ遺骨を運ぶ大 名行列が通るために幕府の命令で村人総出で造ったという道で す。当時の東海道を通らず、あえて矢倉沢古道筋を安全のため に選んで整備したとのことです。


[案内板]
鎌倉裏街道の傍らに立っていたものです。(撮影:田中純)

ちょっと雨が強くなってきましたが、多摩よこやまの道は、 ニュータウン総合市場を左に見て、いよいよ、よこやまの道ら しい尾根筋の道になります。この付近、国士舘大学の裏手から 黒川配水場あたりまでは、古東海道、軍事鎌倉街道とルートが 重なっているようです。古東海道は奈良時代後期( 771年)〜平 安時代の七つの国道のうちの一つで、相模の国府と武蔵の国府 を結んだために多摩丘陵を通ったと考えられています。軍隊の 移動や防人の徴兵のときもこの道を通ったと考えられます。軍 事鎌倉街道は南北朝時代以降に急速に発達した戦略道です。黒 川配水場付近にあった丸山城近くで二つに分かれ、永山駅方向 へ向かっていたようです。よこやまの道は、その先もゆるやか な起伏を繰り返す歩きやすい尾根筋の道です。あいにくの天気 にもかかわらず、女性の4〜5人連れのグループによくすれ違 います。

雨もほとんどやんだ頃、気持ちのいい尾根歩きも、黒川の開 発地を右手に見ながら、多摩東公園・丘の上広場に到着して終 了しました。ほぼ2時間の尾根歩きでした。よこやまの道の南 側に広がる小野路や黒川などの緑地帯と組み合わせれば多摩丘 陵を満喫できる散策路がとれそうです。それにも増して、古代 から江戸時代までの人々が行き来したという多摩丘陵を、歴史 とロマンを感じながら手軽に歩けるよこやまの道は、贅沢な散 歩道なのかも知れません。

<参考文献>
・多摩よこやまの道パンフレット(都市基盤整備公団、多摩市発行)
・多摩のよこやま道散策マップ(多摩の自然とまちづくりの会編)
・多摩丘陵フットパス1(NPO法人みどりのゆび発行)

(プランヴェールせせらぎの丘 田中 純)


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